金田一耕助の事件簿015
映像ではなく小説を味わうべき作品
「犬神家の一族」（横溝正史）角川文庫
犬神財閥の創始者･佐兵衛の
残した遺言状は、残された一族を
驚愕させるものだった。
血で血を洗う遺産相続を
予感した人々の
怖れていたとおり、
殺人事件が起きる。
次女･竹子の子･佐武、
三女･梅子の子･佐智が
相次いで殺されていく…。
｢獄門島｣｢本陣殺人事件｣等と並んで
横溝正史の最高傑作の一つである
｢犬神家の一族｣。
映像化の多い作品であり、
映画化は3回、
テレビドラマ化は実に8回という、
超人気作です。
最も有名なのは、
監督･市川崑、
金田一耕助役･石坂浩二による
1976年の映画でしょうか。
映像を観てしまうと、どうしても、
佐清のマスクずらしや、
佐清の二本足の、
強烈な場面ばかりが
印象に残ってしまうのですが、
本作品の味わいどころは
もっとほかにあるのです。
味わいどころはずばり、
作品全体にちりばめられた
｢謎｣にあります。
【事件簿File-015｢犬神家の一族｣】
〔事件発生〕
昭和24年10月～12月(長野県･那須)
〔依頼人〕
若林豊一郎
…古館法律事務所弁護士。
金田一との会見の直前、
何者かに毒殺される。
古館恭三
…古館法律事務所長。
犬神家顧問弁護士。
佐兵衛の遺言状を預かる。
若林死後、金田一に協力を要請。
〔捜査関係者〕
橘署長
…那須警察署長。恰幅のいい人物。
藤崎鑑識課員
…那須署所員。指紋鑑定の権威。
佐清の手形と奉納手型を照合。
沢井･川田･西本･吉井刑事
…那須署刑事。
楠田医師
…町の医者。警察の嘱託を兼務。
〔事件関係者〕
犬神佐兵衛
…犬神財閥創始者。
奇妙な遺言状を遺して死亡。
犬神松子
…佐兵衛の長女。夫とは死別。
那須の本邸に住む。
犬神佐清
…松子の一人息子。29歳。
戦争で顔に重傷を負い、
仮面姿で現れる。
犬神竹子
…佐兵衛の次女。
東京で暮らしているが、
佐兵衛命日は一家で本邸へ。
犬神寅之助
…竹子の夫。犬神製糸東京支店支配人。
犬神佐武
…竹子の長男。28歳。
犬神小夜子
…佐武の妹。22歳。
従兄の佐智と関係、身ごもっていた。
犬神梅子
…佐兵衛の三女。
神戸で暮らしているが、
佐兵衛命日は一家で本邸へ。
犬神幸吉
…梅子の夫。犬神製糸神戸支店支配人。
犬神佐智
…梅子の息子。27歳。
野々宮大弐
…那須神社神官。
行き倒れていた若き佐兵衛を拾い、
育て上げる。故人。
野々宮晴世
…大弐の妻。故人。
野々宮祝子
…大弐･晴世の娘。養子に迎えた夫と
娘･珠世をもうける。故人。
野々宮珠世
…祝子の娘。絶世の美女。
犬神家の財産相続の鍵を握る。26歳。
猿蔵
…犬神家の庭師。元野々宮家の使用人。
珠世を忠実に護衛する。
青沼菊乃
…佐兵衛が寵愛した女性。
佐兵衛との間に一子をもうける。
三姉妹から凄惨な私刑を受け、失踪。
青沼静馬
…佐兵衛と菊乃の間に生まれた息子。
消息不明。
大山泰輔
…那須神社神主。
佐兵衛の過去を調べ、
意外な事実を暴露する。
志摩久平
…下那須で旅籠屋･柏屋を経営。
軍隊服の男が宿泊したことを証言。
宮川香琴
…松子の琴の師匠。目が不自由。
軍隊服の男
…正体不明。青沼静馬か？
本作品の味わいどころ①
｢一族｣としての血の系譜の謎
｢一族｣といっても、表面上は
佐兵衛が三人の妾に産ませた
娘･松子･竹子･梅子と、
その子たち･佐清･佐武･佐智なのです
(三人の妾や娘の夫たちは
佐兵衛に歯牙にもかけられず、
物語の上でも重要な役割は
与えられていません)。
犬神家は身寄りのなかった佐兵衛が
初代であり、血のつながった家族は
これだけなのです。
なぜ｢一族｣なのか？
それが本作品の
味わいどころとなっていて、
読み進めるにつれて驚くべき事実が
明らかになってくるのです。
本作品の味わいどころ②
血で血を洗う、驚愕の遺言状の謎
一族のその血の繋がりが、
驚愕の遺言状につながってくるのです。
遺言状には複雑な条件が
書かれていたのですが、簡単に言うと
どのような事態になろうとも、
遺産の大部分は
佐兵衛の恩人の孫･珠世か、
佐兵衛の行方知れずの落とし胤･
青沼静馬のどちらかに
相続されるというものなのです。
佐清･佐武･佐智、
そして松子･竹子･梅子にしてみれば
不満が爆発するのもうなずけます。
なぜ佐兵衛が
そのような遺書を残したのか？
それもまた本作品の
味わいどころとなっていて、
読み進めるにつれて次第にその真相が
明らかになってくるのです。
本作品の味わいどころ③
死体に残された斧･琴･菊の謎
殺された三人の死体には、
犬神家の家宝である｢斧･琴･菊｣を
擬える判じ物が残されていたのです。
それは家宝であるとともに、
松子･竹子･梅子の三人がかつて犯した
罪に対する呪いでもあるのです。
なぜ犯人はそのような手の込んだ
死体遺棄を行ったのか？
それが本作品の
最大の味わいどころとなっていていて、
読み進めるにつれて次第に
偶然が必然を生み、必然が偶然を生む
運命の不可思議さが
明らかになってくるのです。
今、何度目かの再読を終えましたが、
そのおどろおどろしい作品世界、
練りに練られた人物設定、
緻密な作品構成に
深い衝撃を受けざるを得ません。
TVの映像に触れただけで未読の方は、
ぜひ本作品を一読し、
｢犬神家の一族｣の真価を存分に
味わっていただきたいと思います。
（2020.3.3）
〔娘のつくった動画もよろしく〕
こちらもご覧下さい。
ぜひチャンネル登録をお願いいたします！
（2023.9.19）
〔追記〕
こちらもどうぞ
（2023.9.29）
〔追記〕
私の本棚には
｢犬神家の一族｣が4冊あります。
冒頭の写真は一昨年に復刻された
杉本一文装丁表紙のものですが、
そのほかに次の3点があります。
漢字一文字の現在の装丁は、
まったくもって味わいがありません。
横溝正史の作品世界と
杉本一文装丁表紙は、
切っても切り離せない関係にあります。
〔｢犬神家の一族｣はいかがですか〕
〔関連記事：金田一耕助シリーズ名作〕
〔横溝正史の本はいかがですか〕
【今日のさらにお薦め3作品】
【こんな本はいかがですか】
